2024年8月22日
「リジェネラティブ・オーガニック(以下、RO)」という言葉をご存知だろうか。
これは、「土壌の健康」「動物福祉」「社会的公正」の3つを柱に据えた新しい農業システムのことで、生態系の健全性の維持や深刻な気候変動を解決するための切り札として大いに注目されている。
ここでは、そんなROを実際に体験し、深く知ってもらうべく開催された体験イベントの模様をレポートする。
CONTENTS
1 ―ROを実践から学ぶ
2 ―ユニークで美味しい有機野菜を収穫
3 ―ROを未来へつなぐために必要なこと
「Treat The Earth Like Home(地球を自分の家のように大切にしよう)」という企業理念に基づき、ドクターブロナーは早くからその可能性に注目してきた。
前述した3つの柱、「土壌の健康」「動物福祉」「社会的公正」のそれぞれに、最高レベルの基準を定めたRO認証の設立も牽引し、全ての製品がこの基準をクリアした原材料でつくられている。
そんなドクターブロナーのビジョンに共鳴し、今回のイベントに協力してくれたのが、神奈川県茅ヶ崎市でROに取り組む「ふるさとファーマーズ」の石井雅俊さんと、「はちいち農園」の衣川晃さんだ。
共に、無農薬、無化肥、無動物性堆肥で、動力機械を使わずに手作業で行う不耕起栽培によってROを実践している。
集まった参加者は小さな子どもから大人まで20名。県立茅ケ崎里山公園に近接する「はちいち農園」の畑をお借りして、定植から収穫までをギュギュッと凝縮して体験してもらう。
さて、今日主流となっている工業型農業(慣行栽培)は、農薬や化学肥料によって土壌本来の肥沃さや生物多様性を損なうだけでなく、深耕によって土壌内の炭素を空気中へ大量に放出することが気候変動を促進する要因のひとつとなっている。
一方でROは、農薬や化学肥料の不使用はもちろんのこと、土壌に負担をかけない耕作方法によって土壌内微生物への妨害を最小限に抑えると同時に、炭素を土壌内に蓄積できるメリットがある。
決め手となるのが、カバークロップ(緑肥)と呼ばれる被覆作物。収穫用としてではなく、通常使用されるビニールマルチの代わりに「土壌を覆う」ために植えられる植物のことである。土壌環境や生態系の再生、害虫予防などに効果があるほか、土壌が絶えず植物に覆われていることで、炭素を土の中に留めておける効果がある。
加えて土を動かさないこと。そうすることで、ミミズやさまざまな微生物が有機物を分解してくれるわけだ。実際に土を触ってみると、ふかふかさに驚かされる。
この日の「はちいち農園」には、にんにく、かぶ、大根、人参、ブロッコリー、じゃがいも、レタス、小松菜、ビーツ等々、およそサッカーコート1面分の畑に多種多様な作物が育っていた。
雑草に交じって生えているルッコラは風味豊かで濃厚、パクチーはえぐみが少なく実に食べやすい。
衣川さんの案内で畑を一通りめぐったら、さっそく農作業スタート。
まずは定植体験から。今回はバジルと大葉の苗を植えていく。
作業は10人ずつ、2チームに分かれて交代制で行う。両手に軍手をはめ、小さな鎌の刃で草を掻き分けて苗が収まるサイズの穴をつくる。
苗を植えたら土を塩梅よく固めて鎮圧。穴をつくる際に掻き分けた草を株下に戻すことも大事なポイントだ。こうすることで、土の中の水分が乾きにくくなるのだとか。
続いて、お待ちかねの収穫体験。にんじん2本とミニ大根の大盤振る舞いだ。
「軸が太いものが収穫どきの証」ということで、じゃんじゃん引っこ抜いていく。
どちらも形が特徴的。大根は冷蔵庫に収まるちょうどいいサイズ感だ。
定植のときと同様、作物を抜いたところにまわりの土や草で覆ってあげるのを忘れずに。こういった小さな作業の積み重ねによって、豊かな土壌が保たれているのだ。
農作業体験にプラスして、大地の恵みを味わえるもう一つの目玉が「SOYSCREAM!!!」だ。これは「環境保全への参加意識が高まるように」と衣川さんが開発したオーガニックアイスクリーム。暑い日の農作業のシメにはピッタリである。
原材料は不耕起栽培でつくられた大豆。コーンはその大豆から出たおからと米粉を使っているのだそう。
「キャラメルナッツ味!」「しっかり甘さがあって濃厚」など、参加者一同、大絶賛の美味しさ。ROの魅力をひと味違ったカタチで体感できる一品だ。
イベントの最後は、ROをテーマに課題や展望について語り合うトークセッション。石井さん、衣川さんに加え、ドクターブロナーからはブランドマネージャーの細川が登壇した。それぞれの想いを以下にまとめたので、ぜひご一読を。
「日本では特に戦後において、農薬や化学肥料を使った慣行栽培が広がっていきました。当時は、お腹を空かしている子どもたちに食べ物を届けるんだという想いがあって行われたこと。何も悪いことをしようと思って始まったことではありません。戦後から80年が経過しようとしている今、私たちは食べるものに困ることはなくなりました。その一方で、土壌が痩せたり、気候変動が進んだりと、状況は様変わりしています。いくら立派な苗を植えたとしても、豊かな土壌なくしては、やはり良い作物は育てられません。だからといって不耕起栽培が一番良いというわけではなく、農業にはいろいろなやり方があって、不耕起栽培もその一つなんだよ、ということを伝えながら、次の世代の農に対する意識をボトムアップしていけたらと思っています」(石井)
「不耕起栽培は決して良いところばかりではありません。まずつくるのが難しいし、手作業でやれば収穫量は少ない。農業者の立場から言うと、収穫量=収入なので、多くの人が効率を選んでしまうのも理解できます。でも、今日実際に体験してもらったとおり、お金に換算できない付加価値みたいなものは絶対にあるし、僕自身もめちゃくちゃ楽しいからやっているんです。それが自分の幸福感に直結しているし、さまざまなものに対してやさしい気持ちにもなれる。そもそも、環境に負荷をかけない生き方ができる人なんていません。僕が不耕起栽培をやっているのは、その反省も含めて、というのと、マイナスを少しでもゼロに戻して、さらに時代を半歩先に進めたいという想いがあるからなんです。何が良くて何が悪いかではなく、それぞれが想い持ってしっかり考えること。その上で何かを選択していくことが大切なんじゃないかと思います」(衣川)
「ソープメーカーであるドクターブロナーが環境問題に対して取り組んでいることは、何よりもまず、100%自然由来の原材料を使用しているということ。『地球の恵みを受けて育ったものを使い、それらを再び地球に還す』という想いが、全て製品に込められています。その一方で、今日体験した不耕起栽培のような農法には大変な労力が必要です。だからこそ、原材料をつくってくれている農家の皆さんが持続的に生産に取り組めるようなサポートの重要性を改めて認識することができました。また、お二人がお話されていたように、さまざまな角度から考えて物を選ぶということも、いち消費者として実践できることではないかと思います。最近では“オーガニック”というワードが独り歩きして、正しく基準を満たしていない商品が乱発しているのも問題化しています。ドクターブロナーとしては、今後も同じ志を持つ企業の皆さんと一緒に、RO認証マークの認知をさらに進めていきたいと思います」(細川)
PHOTO:Akane Watanabe
EDIT&TEXT:Soichi Toyama